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2026年7月8日

「アブラハム物語を黙想する3~さあ、見回してみなさい~」

創世記13章1~18節

井ノ川勝

1.新たな危機

(1)アブラハムは神の御言葉に導かれて、旅人として地上を歩みました。神はアブラハムを通して、地上の全ての民族は祝福されると約束され、アブラハムを「祝福の基」として選ばれました。アブラハムは私どもの「信仰の父」と呼ばれています。天の故郷を目指し、地上を旅する神の民である私どもキリスト者の模範です。しかし、アブラハムも罪人であり、大きな過ちを犯しました。

 神に導かれて、約束の地カナンに来ましたが、飢饉が起こり、カナンに留まることが出来なくなりました。「外的危機」に直面しました。アブラハムはカナンを離れ、エジプトに下りました。そこでアブラハムは罪を犯しました。美しい妻サライを妹と偽り、エジプト王に差し出すことにより、生き延びようとしました。アブラハムの信仰が問われる「内的危機」です。しかし、主は介入され、エジプトの宮廷に恐ろしい災いを下されました。主はファラオを通して、アブラハムに語りました。「あなたは何ということをしたのか。なぜ、彼女が妻であると告げなかったのか。なぜ、彼女を妹であると言ったのか」。アブラハムはファラオから富を贈られ、エジプトから再びカナンへと旅立ちました。しかし、妹と偽ったサライを妻と迎え入れたアブラハムは、妻に対してどんな言葉を語ったのでしょうか。そのことは記されていません。自らを選ばれた神に対しても、妻に対しても、大きな罪を犯しました。

 

(2)13章はこのような言葉から始まります。「アブラムは妻を伴い、すべての持ち物を携え、エジプトからネゲブへと上って行った。ロトも一緒であった。アブラムは家畜や銀と金に恵まれ、大変に裕福であった」。

飢饉のためエジプトに下ったアブラハムは富を贈られ、豊かになりました。しかし、それがアブラハムとその一族に、新たな危機をもたらしました。アブラハム一族には二人のリーダーがいました。アブラハムと甥のロトです。旅人は貧しい。しかし、貧しさの中で、アブラハムとロトのグループは協力し合い、一つになっていました。しかし、豊かになることにより、アブラハムとロトのグループの間に亀裂が生じました。それが13章の主題です。

 

2.共同体の分裂の危機

(1)3節「彼はネゲブからさらにベテルまで旅を続け、ベテルとアイの間にある、かつて天幕を張った所までやって来て、初めに祭壇を造った場所に行き、そこで主の名を呼んだ」。

 神に召され、約束の地カナンにやって来た時に、アブラハムはシュケムで祭壇を築き、更に、ベテルでも祭壇を築き、主の名を呼びました(12・8)。アブラハムの信仰の原点がここにあります。主の名を呼ぶ礼拝です。エジプトで大きな罪を犯したアブラハムは、再びカナンに戻り、信仰の原点であるベテルの祭壇の前で、主の名を呼びました。主を礼拝し、罪を悔い改めることから、新たな歩みを始めようとしました。

 

(2)5節「アブラムと一緒に行ったロトもまた、羊の群れと牛の群れと多くの天幕を持っていた。そのため、その地は彼らが一緒に住むには十分ではなかった。財産が多く、一緒に住むことはできなかったのである。当時、その地にはカナン人とペリジ人が住んでいた」。

 エジプトで羊の群れと牛の群れという財産を手にしたアブラハムとロトのグループの間に、亀裂が生じました。日常生活の些細ないざこざです。羊の群れと牛の群れの水飲み場、あるいは草を食べる場所の縄張り争いが生じたのかもしれません。貧しい時には生じなかった問題です。財産が豊かになったことにより生じた問題です。日常生活の些細ないざこざが、しかし、アブラハムとロトのグループの亀裂を生じさせました。一つの共同体に分裂が生じました。共同体の危機です。

 この時、アブラハムはどのような決断をしたのでしょうか。主の祭壇の前でひざまずき、主の名を呼びながら、主の御心を問いかけたことでしょう。そして主の祭壇の前で、一つの決断をしました。

 8節「アブラムはロトに言った。『私たちは親類どうしなのだから、私とあなた、また私の家畜を飼う者たちと、あなたの家畜を飼う者たちとの間で争い事がないようにしたい。あなたの前には広大な土地が広がっているではないか。さあ私と別れて行きなさい。あなたが左にと言うなら、私は右に行こう。あなたが右にと言うなら、私は左に行こう』」。

 アブラハムの決断は大胆です。アブラハムとロトのグループがこのまま一緒に生活していたら、いがみ合いながら分裂してしまう。禍根を残す。それ故、別々に生活しようと提案をします。禍根を残さずに分かれる提案をします。しかし、問題はそれぞれがどの土地を選ぶかです。当然、選択の優先権は年長のアブラハムにあります。しかし、アブラハムがよい地を選べば、ロトとその一族から不平不満が生まれます。そこで選択の優先権をロトに譲りました。当然、アブラハム一族から不満が生まれます。しかし、自らの一族の不満を抑えてまで、ロトに選択の優先権を譲った方が禍根を残さないと判断しました。「牧会的判断」です。

 

3.さあ、見回しなさい

(1)10節「ロトがヨルダンの低地一体を見回してみると、主がソドムとゴモラを滅ぼされる前であったので、その辺り一面は、主の園のように、またエジプトの地のように、ツォアルに至るまであまねく潤っていた」。

 まず、ロトが目を上げて、見回します。ヨルダンの低地一帯は主の園のように、エジプトの地のようにあまねく潤っていました。ロトはその地を選びました。そこにはソドムとゴモラのように繁栄した町がありました。

 11節「そこでロトは、ヨルダンの低地一帯を選び取った。ロトは東の方へ移って行き、こうして彼らは互いに別れた。アブラムはカナンの地に住み、ロトは低地の町に住んで、ソドムの近くに天幕を移した。ソドムの人々は主に対して、極めて邪悪で罪深かった」。

 アブラハムは顔を伏せました。自分の牧会的判断が正しかったのか悩みました。自らの一族からは不満の声が上がりました。ロトが潤った地を選んだので。残った地は肥沃な地ではありません。

 14節「ロトが別れて行った後、主はアブラムに言われた。『さあ、あなたは自分がいる所から北、南、東、西を見回してみなさい』」。

 「主はアブラムに言われた」。アブラハム物語の冒頭の御言葉です。全ては主の言葉から始まります。「さあ、目を上げて、見回しなさい」。ロトは自分の意志で見回しました。しかし、アブラハムは主の言葉に促されて、目を上げ、見回しました。

 15節「見渡すかぎりの地を、私はあなたとあなたの子孫に末永く与えよう。私はあなたの子孫を地の塵のように多くする。もし人が地の塵を数えることができるなら、あなたの子孫も数えることができるだろう。さあ、その地を自由に歩き回ってみなさい。私はその地をあなたに与えよう」。

 人間の目から見れば、残り物の地は肥沃ではありません。しかし、神はその地を祝福すると約束されます。その地をあなたとその子孫に末永く与え、子孫が地の塵のように増える。

 18節「アブラムは天幕を移し、ヘブロンにあるマムレの樫の木のそばに来て住み、そこに主のために祭壇を築いた」。

 アブラハムは残り物の地を、主から与えられた地として、感謝をもって受け入れました。ヘブロンに、主のための祭壇を築き、主を礼拝しました。

 

(2)「目を上げて、見よ」。顔を伏せる私どもに、主が語りかける御言葉です。主の御言葉に促されて、目を上げて見た時に、人間の目では不毛としか見えない現実でも、そこにも主の恵みが備えられていることを見るのです。

 コリントの信徒への手紙二5章13節。「だから、誰でもキリストにあるなら、その人は新しく造られた者です。古いものは過ぎ去り、(見よ)、まさに新しいものが生じたのです」。

 マタイによる福音書28章20節。「私は世の終わりまで、(見よ)、いつもあなたがたと共にいる」。

 

4.御言葉から祈りへ

(1)ブルームハルト『ゆうべの祈り』(加藤常昭訳) 7月8日の祈り 詩編34・18~19

「主よ、われらの神よ、天地におけるわれらの父よ、われらは感謝します。あなたはひとつの民をご自分のものとし、おまえはわたしのものだ!と言われます。われらをその民に加えてください。常に信仰においてわれらを強め、われらがあなたのものとなり、あなたの支配とあなたの支配の義をも経験しうるようにしてください。すべてのわれらの道にあって、われらを守ってください。地上におけるいかなる時にも守ってください。さまざまの悪い時があります。しかし何が起ころうとわれらはひとりびとり心に確信を持っています。われらはあなたのものである!と。すべて長い間あなたはわれらを守り、防いできてくださいました。われらは常に言います。これはわれらの信仰告白です。主よ、われらの神よ、われらの救い主イエス・キリストによって、われらはあなたのものです!アーメン」。

 

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