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2025年3月5日

「教会の伝道物語を黙想する6~イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさい~」

使徒言行録3章1~10節

井ノ川勝

1.わたしたちを見なさい

(1)教会が誕生して間もなく、エレサレム神殿の境内の片隅で、小さな出来事が起こりました。しかし、この小さな出来事が、その後の教会の歩みを方向付ける決定的な出来事となりました。それが使徒言行録3章の御言葉です。「ペトロとヨハネが、午後3時の祈りの時に神殿に上って行った」。ユダヤ人は一日三度、祈りの時があり、エルサレム神殿に上って行きました。ペトロとヨハネもそれに従い、神の御前で祈ることを大切にし、エルサレム神殿へ上って行きました。その途中で事件が起こりました。2節「すると、生まれながら足の不自由な男が運ばれて来た。神殿の境内に入る人に施しを乞うため、毎日『美しい門』という神殿の門のそばに置いてもらっていたのである」。生まれつき足の不自由な男が運ばれて来ました。4章22節では「40歳を過ぎていた」とあります。生まれてから40年の間、自分の足で立つことが出来ませんでした。従って、毎日、家族、友人の手を借りて、運ばれ、エレサレム神殿の「美しの門」に置かれました。神殿の境内に入る人に施しを乞うためでした。「運ばれ」「置かれた」。足の不自由な男は物のように扱われていました。しかし、この美しの門の側で、人生を変える出来事が起きたのです。

 

(2)生まれつき足の不自由な男は、ペトロとヨハネが境内に入ろうとするのを見て、施しを乞いました。他の参拝者にしていることと同じように、ペトロとヨハネにもしました。ペトロはヨハネと一緒に男をじっと見て、語りかけました。「わたしを見なさい」。実は、既にお気づきになったかもしれません。「見る」という言葉が繰り返されています。3、4、5,9,12節。ペトロは男をじっと見ました。男が生まれつき足が不自由であるという外面だけを見たのではありません。男が心までも病んでいる内面をじっと見たのです。男が何を土台に据えて生きているのかを見たのです。男は毎日、美しの門の側まで運ばれて来ました。参拝者に物乞いをするためです。しかし、神殿の境内にまで運ばれて、神に向かって祈りを捧げようとは思わなかったのです。生まれつき足が不自由で、自分の足で立てない。何故、私はこんなに辛い目に遭わなければならないのかと、神に向かって何度も不満をぶつけたことでしょう。ペトロは男のそのような心の内面までも、じっと見たのです。そして語りかけました。「わたしたちを見なさい」。

 5回出てくる「見る」の中心にある言葉です。聖霊によって誕生した教会はどのような存在なのか。教会に生きる人々はどのような存在なのか。それを明確に言い表す言葉です。「わたしたちを見なさい」。使徒言行録は1,2章で、教会に生きる者たちをこう言い表しました。「キリストの復活の証人」。「証人」「証し人」は、自分の言葉、存在、生活を通して、生けるキリストを証しします。人々はキリストの証人の言葉、存在、生活を通して、ここに生けるキリストが生きておられることを見るのです。「キリストの証人」とは、人々から見られる存在です。それ故、「わたしたちを見なさい」と語るのです。しばしば私どもはこう語ります。「わたしを見ないで、わたしが指し示すキリストを見なさい」。私を見たら躓くから、私が指し示すキリストを見て下さい。それでは伝道できません。私を隠しては証しになりません。私の言葉、存在、生活が、生けるキリストを証しするのです。

それ故、「わたしたちを見なさい」とは、「わたしたちを生かしているキリストを見なさい」ということです。私を除けて、キリストが働かれるのではなく、私を通してキリストが生きて働かれるのです。

 12節でペチロは語りました。「なぜ、わたしたちを見つめるのですか」。「わたしたちを見なさい」と矛盾しているように思えます。しかし、そうではありません。生まれつき足の不自由な男を癒し、立ち上がらせたのは、ペトロではなく、ペトロを生かしている生けるキリストである。それ故、私どもを生かしている生けるキリストを見なさいという意味なのです。

 

2.イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさい

(1)「わたしたちを見なさい」。ペトロの語りかけに、男は何かもらえると思って二人を見つめました。ペトロは語りかけます。6節「わたしには金や銀はないが、持っているものをあげよう。ナザレの人イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさい」。今から10年前に、日本基督教団北陸伝道大会が金沢教会で行われました。会堂に200名の方が集いました。講演をされたのは、加藤常昭先生でした。若草教会時代の伝道を語りながら、この御言葉を説き明かされました。教会には物もらいの方がよく訪ねて来ます。その時、加藤先生はこの御言葉を朗読された。すると物もらいは「教会はお金がないのか」と言って、去って行った。

 ペトロのこの言葉は、教会が語るべき言葉が決定づけました。教会はこの世界に向かって、何を伝えるのかが明確にされました。「わたしには金や銀はないが、持っているものをあげよう。ナザレの人イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさい」。教会は「イエス・キリストの名」を伝え、語る。「イエス・キリストの教え」ではありません。「イエス・キリストの名」です。イエス・キリストの人格、いのちです。説教はイエス・キリストの名による言葉です。祈りはイエス・キリストの名による祈りです。讃美歌はイエス・キリストの名による賛美です。祝祷も、洗礼もイエス・キリストの名による祝福、洗礼です。教会が語る言葉、業は全て、「イエス・キリストの名」によるものです。「イエス・キリストの名」に、神の権威、力があるのです。

 

(2)「ナザレの人イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさい」。すると、たちまち、男は足やくるぶしがしっかりして、躍り上がって立ち、歩き出しました。生まれつき足の不自由な男が立ち上がり、歩き出す。この出来事は全ての人に起こる出来事です。苦しみや悲しみに直面し、魂がくずおれて、立ち上がれない人は多くいます。そのような一人一人に、教会は語るのです。「イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさい」。あなたもイエス・キリストの名によって立ち上がり、歩くことができる。

 生まれつき足の不自由な男が立ち上がり、歩き出して、最初に何をしたのでしょうか。「歩き回ったり踊ったりして神を賛美し、二人と一緒に境内に入って行った」。イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩き出すことは、神を賛美する人間とされることです。今まで、美しの門の側まで運ばれて、祈るために神殿の境内にまで運ばれなかったのです。神に向かって祈ることも、賛美することもしなかったのです。しかし、イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩き出し、神を賛美する者とされたのです。そしてペトロとヨハネと共に神殿の境内に入り、神を礼拝する者とされたのです。

 金沢教会の週報に教会の標語が記されています。「主を喜び、讃美する教会」。この言葉は、17世紀、英国で生まれた改革長老教会の信仰である『ウェストミンスター小教理問答』問1の言葉です。問1「人間の第一の目的は、何ですか」。答「人間の第一の目的は、神に栄光を帰し、永遠に神を喜びとすることです」。人生の第一の目的は、永遠に神を喜び、神を賛美し、神を礼拝することです。

 9節「民衆は皆、彼が歩き回り、神を賛美しているのを見た。彼らは、それが神殿の『美しい門』のそばに座って施しを乞うていた者だと気づき、その身に起こったことに我を忘れるほど驚いた」。

 教会はイエス・キリストの名によって、神を喜び、神を賛美し、神を礼拝する者を生み出します。それこそがイエス・キリストの名によって立ち上がり、歩き出すことです。最初の教会から今日に至るまで、聖霊の御業は途切れることなく、働いてこられたのです。

 

(3)使徒言行録26章12節以下で、パウロが自らの回心の出来事を語っている。教会の迫害者、敵であったパウロを、甦られた主イエスは打ち倒され、語られました。「わたしは、あなたが迫害しているイエスである。起き上がれ、自分の足で立て、わたしがあなたに現れたのは、あなたがわたしを見たこと、そして、これからわたしが示そうとすることについて、あなたを奉仕者、また証人にするためである」。「起き上がれ、自分の足で立て」。言い換えれば、「イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさい」。パウロもイエス・キリストの名によって立ち上がり、歩き出し、キリストの証人とされました。それ故、パウロも、「わたしに倣う者となりなさい」「わたしを見なさい」と語りました。わたしという存在を通して、働く生けるキリストを見なさいと、言葉と存在を通してキリストを証ししました。

 

3.御言葉から祈りへ

(1)ブルームハルト『ゆうべの祈り』(加藤常昭訳) 3月5日の祈り ルカ12・32

「主よ、われらの神よ、われらは小さい群れをなしてみもとにまいります。あなたはわれらを受け入れてくださり、あなたのものとしてわれらを支え、あなたの定めた時に解放しようとしていてくださいます。常にわれらを守り、強く信仰の中にとどまらせてください。われらすべての民をその信仰によって強めてください。み名のためにあなたの民を光に至らせてください。こよいもわれらはわれら自身をみ手にゆだねます。主よ、われらの神よ、霊においてわれらと共にいてください!アーメン」。

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