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2026年10月21日

「ヤコブ物語を黙想する5~ヤコブは旅を続けたが、その時、神の使いたちが現れた。「これは神の陣営だ」~」

創世記 32章1~33節

井ノ川 勝 牧師

 

1.故郷へ帰るヤコブ

(1)「ヤコブ物語」は「格闘の物語」です。ヤコブは兄エサウと格闘し、長子の権利を掴み取りました。また、叔父ラバンと格闘し、二人の妻、11人の息子、1人の娘を得、多くの家畜・財産を掴み取りました。しかい、ヤコブはどうしても格闘しなければならないお方がいました。神です。神との格闘を避けることは出来ません。神との格闘なくして、兄エサウとの再会、和解はあり得ませんでした。神の家族の物語は格闘の物語です。

 ヤコブは兄エサウの許から離れ、パダン・アラムのハランに住む叔父ラバンの許へ逃れました。兄エサウ、父イサクを騙し、長子の権利、神の祝福を掴み取ったヤコブは、今度は叔父ラバンに何度も騙され、20年間働かなければなりませんでした。しかし、ヤコブも狡猾で、20年間の逃亡生活で、2人の妻、12人のこども、多くの家畜を掴み取りました。ヤコブは神から命じられました。「あなたの先祖の地、親族のもとに帰りなさい。私はあなたと共にいる」(31・3)。ヤコブは20年ぶりに故郷を帰る決心をしました。追いかけて来た叔父ラバンと契約を結び、故郷へ向かって旅立ちました。

 1節「ラバンは朝早く起きて、孫と娘たちに口づけし、彼らを祝福した。それからラバンは自分の住まいに帰って行った。ヤコブは旅を続けたが、その時、神の使いたちが現れた。ヤコブは彼らを見たとき、『これは神の陣営だ』と言って、その場所をマハナイムと名付けた」。

 ヤコブが故郷へ帰る。それは兄エサウと再会することです。ヤコブは兄エサウを恐れていました。しかし、その時、兄エサウの許を逃れた夜、荒れ野で石を枕にして夢を見、神からの語りかけを想い起こしました。天から梯子が降ろされ、神の使いたちが昇り降りしている。神は語られました。「私はあなたと共にいて、あなたがどこへ行くにしても、あなたを守り、この土地に連れ戻す。私はあなたに約束したことを果たすまで、決してあなたを見捨てない」(28・15)。神の使いがヤコブの回りを陣営のように取り囲んでいるのを見ました。詩編34・8.

 

(2)ヤコブは兄エサウとの再会に当たり、用意周到、知恵と策略を巡らせます。

 4節「ヤコブは自分より先に、セイルの地、エドムの野にいる兄エサウに使いの者を送り、彼らにこう命じた。『私の主人であるエサウに次のように言いなさい。「あなたの僕ヤコブはこう申しております。私はラバンのもとに身を寄せ、今に至りましたが、牛とろば、羊の群れ、男女の奴隷を持つようになりました。このことを私の主人に報告し、ご行為をいただきたく使いの者を送りました」』」。

 兄エサウを「私の主人」、ヤコブ自らを「あなたの僕」と言っています。ラバンの許で得た牛、ろば、羊を貢ぎ物として贈ろうとしています。

 7節「使いの者たちはヤコブのところへ帰って来て言った。『兄上のエサウ様のところへ行って参りました。兄上もあなたに会うために、四百人を引き連れてこちらに向かっておられます』。ヤコブは非常に恐れて悩み、共にいた一族、羊と牛、そしてらくだを二組に分けた。エサウが一つの組にやって来て、それを撃ったとしても、もう一つの組は難を逃れるだろうと思ったからである』」。

 使いの者たちの報告に、ヤコブは恐れを抱きます。兄エサウが四百人を連れて向かっていると聞いたからです。兄エサウはヤコブに対して、憎しみと殺意を抱いている。そこでヤコブは知恵と策略を練ります。共にいた一族、羊と牛、らくだを二組に分けます。損害、損失を半分に留めようとしました。

 

2.ヤコブの祈り

(1)10節「ヤコブは祈った」。ヤコブの祈りが記されています。長い祈りです。聖書が長い祈りを書き留めることは異例です。それだけ重要な祈りです。一方でヤコブは知恵と策略に長けています。しかし、それはヤコブの祈り、神の知恵を求める祈りから生まれたものです。素晴らし祈りです。

 「父アブラハムの神、父イサクの神、『生まれた地、親族のもとに帰りなさい。私はあなたを幸せにすると言われた主よ、私は、あなたが僕に示してくださったすべての慈しみとまことを受けるには足りない者です。かつて私は杖だけを頼りにこのヨルダン川を渡りました。しかし今や私は二組の宿営を持つまでになりました。どうか、兄エサウの手から私を救ってください。私は兄が怖いのです。兄が私を、母親も子どもたちも殺しにやって来るのではないかと恐れています。あなたはまたこう言われました。「私は必ずあなたを幸せにする。あなたの子孫を、多く数える海辺の砂のようにする」』」。

 ヤコブは兄エサウと自分とを主人と僕と呼びました。しかし、ヤコブにとって真実の主人と僕との関係は、神と自分です。ヤコブの祈りは僕の祈りです。「私は、あなたが僕に示してくださったすべての慈しみとまことを受けるには足りない者です」。ヤコブは祈りの中で、率直な思いを打ち明けています。「どうか、兄エサウの手から私を救ってください。私は兄が怖いのです」。ヤコブは兄エサウを恐れています。エサウが私と、二人の妻、12人の子どもたちを殺してしまうのではないかと恐れています。しかし、同時に、神が夢の中で、天から梯子を降ろし、ヤコブに語りかけた御言葉を想い起こしています。「私は必ずあなたを幸せにする。あなたの子孫を、多くて数えることができない海辺の砂のようにする」(28・13~14)。

 

(2)14節「その夜、彼はそこで一夜を過ごした。そして自分が手に入れてきたものの中から兄エサウへの贈り物を選び出した。雌山羊二百匹と雄山羊二十匹、雌羊二百匹と雄羊二十匹、子に乳を飲ませているらくだ三十頭と雌ろば十頭である。彼はそれらを群れごとに分け、僕たちの手に託して言った。『群れと群れとの間には距離を置き、私の先に行きなさい』。また先頭を行く者には次のように命じた。『兄エサウがあなたに会い、「あなたはどこの者か。どこへ行くのか。あなたの先を行くこれらの家畜の群れは誰のものか」と尋ねてきたら、こう答えなさい。「あなたの僕ヤコブの家の者です。またこの家畜の群れは、私の主人であるエサウ様に差し上げる贈り物です。御覧ください。ヤコブは私たちの後から参ります」』」。

 ヤコブの兄エサウへの贈り物は破格の贈り物です。ここでも「あなたの僕ヤコブ」、「私の主人であるエサウ」と呼び、兄弟の関係ではなく、主人と僕の関係として向き合おうとしています。ヤコブは兄エサウと再会すりに当たり、いかに知恵と策略を巡らせているかが分かります。先頭は贈り物の家畜、群れと群れとの間に距離を置く。その後に僕たち。そして一番後ろにヤコブ。エサウから攻められた時に、身を守るためです。兄エサウが問いかけるかもしれない。「あなたはどこの者か。どこへ行くのか。あなたの先を行くこれらの家畜の群れは誰のものか」。ここに根源的な問いかけがあります。「あなたは何者か」。「あなたはどこへ行くのか」。(創世記3・9,16・8,出エジプト記3・11)。兄エサウとの再会に当たり、「ヤコブとは何者か」。「ヤコブはどこへ行くのか」。それが「ヤコブ物語」で問われている主題です。

 

3.エサウの顔

(1)26節「続いてヤコブは、二番目の者にも、三番目の者にも、群れの後を行くすべての者にも、次のように命じた。『エサウに出会ったら、次のように告げなさい。「あなたの僕ヤコブも私たちの後から参ります」。』」。

 「ヤコブは贈り物を先に行かせて、エサウをなだめ、その後で顔を合わせれば、恐らく赦してくれるだろうと考えたのである。こうして、贈り物は彼より先に行き、彼自身はその夜、自分の宿営地で一夜を過ごすことにした」。

 直訳するとこうなります。「わたしの顔の前に行く贈り物で、彼の顔を覆い、その後、わたしは彼の顔を見よう。恐らく彼はわたしの顔を上げてくれるであろう」。「顔」という言葉が4回使われます。ヤコブはエサウの顔に取り囲まれています。どこを振り向いてもエサウの顔がある。あっちを向いても、こっちを向いてもエサウの顔が現れる。エサウの顔から解き放たれないで苦しんでいる。誰にも心当たりがあります。

 ヤコブは故郷へ向かう時、神の使いたちが現れたのを見て、「これは神の陣営だ」と言った。私は主の御使いに囲まれている。主の御使いが私の周りに陣を敷かれている。そして何よりも神は語られた。「見よ、私はあなたと共にいる」(28・15)。ヤコブは主の御使いに取り囲まれながら、兄エサウと対面しようとしています。しかし、その前にどうしてもしなければならなかったことがあります。神と格闘することです。神と顔と顔とを合わせることです。神が共におられることを身をもって経験し、真実に神を畏れるようになることです。畏れるべきものは誰なのかを知ることです。私どもは真実に畏れるべき神を畏れず、恐れなくてもよいものを恐れます。神と顔と顔とを合わせ、真実に神を畏れる時、兄エサウの顔の恐れから解き放たれるのです。それが32章23~33節のヤコブと神との格闘の出来事です。

 

3.御言葉から祈りへ

(1)ブルームハルト『ゆうべの祈り』(加藤常昭訳) 10月21日の祈り 黙示録8・3~4

「主なる神よ、われらはみまえにあり、祈り願います。われらの心と思いをあなたに、あなたのみに向けさせてください。あなたは全世界を越えて力あり、人の心のうちにあっていっさいのことをみ心のままになしうる方です。われらの時代に光をもたらしてください。すでにみもとに達している多くの祈願を聞きとどけてください。すでに幾百年の昔からみ座のまえにのぼっていく祈りです。み国を求め、地上におけるみ心を求める祈りです。この地は悪しき者の餌食になってしまったからです。われら人間は貧しく、みじめです。あなたのみこころがわれらを助けうるのです。主よ、われらの父なる神よ、われらを助けてください。艱難ののちにあなたの時を来たらせてください。あなたの大いなる日を、すべての世界、すべての民の上に来たらせてください。アーメン」。

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