1.彼らが主を礼拝し、断食していると、聖霊が告げた
(1)使徒言行録13章から第3部が始まります。アンティオキア教会を拠点として、伝道者パウロが3回に亘り伝道旅行をします。キリストの福音がアジア州へ、エーゲ海を越えてギリシャ半島へ、更に、パウロは捕らえられ、護送され、ローマにまで伝えられて行きます。甦られた主イエスが約束されたように、福音が地の果てまで伝えられて行きます。
13章は第1回伝道旅行の始まりを記しています。使徒言行録の伝道の捉え方が明確に語られています。1節「さて、アンティオキアでは、そこの教会に、バルナバ、ニゲルと呼ばれるシメオン、キレネ人ルキオ、領主ヘロデの幼なじみマナエン、サウロなど、預言者や教師たちがいた」。シリアに誕生したアンティオキア教会は異邦人キリスト者を中心とする教会でした。異邦人伝道を使命とした教会でした。アンティオキアの中心となった伝道者の名が挙げられています。
「バルナバ」。エルサレム教会からアンティオキア教会へ派遣され、タルソクに逃げていたサウロを捜し出し、アンティオキア教会への伝道に導いた伝道者です。年長だったので最初の名が記されていたのでしょう。次に、「ニゲルと呼ばれるシメオン」。「ニゲル」は黒人という意味です。アフリカ大陸北のキレネ出身ではないかと言われています。しかし、シメオンはユダヤ人の名ですから。離散したユダヤ人であったのかもしれません。北アフリカに滞在し、肌が黒かったので、ニゲゲルと呼ばれていたのかもしれません。「キレネ人シメオン」と言うと、マルコ福音書15章21節を思い起こします。主イエスの十字架を無理に担がされた人です。その人が後に、アンティオキア教会の伝道者になっていたとも言えます。次に「キレネ人のルキオ」、やはり北アフリカ出身で、離散したユダヤ人であったと思われます。更に、「領主ヘロデの幼なじみマナエン」。「領主ヘロデ」とは洗礼者ヨハネを殺したヘロデ・アンティパスです。領主ヘロデの幼なじみのマナエンが伝道者として召されています。そして祭儀にサウロです。年下であったので最後に記されているのでしょう。実に、様々な方が主に召されて伝道者となり、アンティオキア教会に連なっています。主の召しでなければ、種々雑多な人々は教会に集められません。
彼らが「預言者や教師」と呼ばれています。「預言者」は巡回伝道者、「教師」は一箇所に定住した伝道者です。
(2)2節「彼らが主を礼拝し、断食していると、聖霊が告げた」。アンティオキア教会の伝道者、信徒たちは、伝道の幻を求めて主を礼拝していました。「断食」も食を絶って祈りに専念することです。礼拝し、祈りながら伝道の幻を求めた。その時、聖霊が告げた。主語が「聖霊」です。伝道者、信徒たちが話し合って伝道計画を立てたのではありません。共に礼拝し、祈りを捧げる中で、聖霊が新しい伝道の幻を告げたのです。伝道の主体は聖霊です。「使徒行伝」は「聖霊行伝」です。
聖霊は何を告げたのでしょうか。「さあ、バルナバとサウロを私のために選び出しなさい。私が前もって二人に決めておいた仕事に当たらせるために」。聖霊にお告げは、バルナバとサウロを新たな伝道旅行、異邦人伝道のために選び、遣わしなさいということでした。アンティオキア教会の中心伝道者です。優れた二人の伝道により、アンティオキア教会の伝道は進展しました。しかし、聖霊のお告げは、二人の伝道者がアンティオキア教会に留まるのではなく、新たな伝道へ遣わされることでした。伝道は一個の教会が進展すればよいものではなく、新たな伝道開拓地を求めて伝道して行くのです。それが聖霊によって示された伝道の幻です。
3節「そこで、彼らは断食して祈り、二人の上に手を置いて出発させた」。この「按手」は伝道者として召され、立たされる按手ではなく、新たな伝道のために祝福を祈る按手です。バルナバとパウロは教会の祈りと祝福に押し出されて、新たな伝道へと旅立ちました。
2.聖霊によって送り出されたバルナバとサウロは
(1)4節「聖霊によって送り出されたバルナバとサウロは、セレウキアに下り、そこからキプロス島に向けて船出し」。バルナバとサウロが真っ先に向かったのは、地中海に浮かぶキプロス島でした。バルナバの出身地です。離散したユダヤ人がいた島です。キプロス島の離散したユダヤ人がアンティオキア教会の最初の信徒となりました(11・20)。5節「サラミスに着くと、ユダヤ人の諸会堂で神の言葉を告げ知らせた」。何もないところから開拓伝道を始める。それは至難の業です。しかし、バルナバとサウロの伝道の取っ掛かりは、各地に離散したユダヤ人の会堂で、離散したユダヤ人に福音を告げ知らせることでした。旧約聖書を共通地盤としていたからです。「二人は、ヨハネを助手として連れていた」。12章12節に登場した「マルコと呼ばれたヨハネ」です。エルサレム教会の母マリアの息子、若者です。伝道助手としてヨハネを連れて行きました。
6節「島全体を巡ってパフォスまで来ると、ユダヤ人の魔術師で、バルイエスと言う偽預言に出会った」。伝道は様々な抵抗勢力との闘いです。その最たるものは、魔術、呪術との闘いです。これは昔のことではなく、今日の伝道課題でもあります。科学技術が発達した今日であっても、人々の心を根深く捕らえるものは、占いや運勢です。自由を謳歌する現代人を縛り付けて、不自由にしています。福音は「魔術・呪術からの解放」をもたらします。真実の自由をもたらします。バルナバとサウロが最初に出会ったのは、ユダヤ人の魔術師バルイエスと言う偽預言者でした。7節「この男は、総督セルギウス・パウルスという賢明な人物のもとにいた」。魔術師バルイエスは総督セルギスス・パウルスの許にいたというのですから、政治的な力を持っていたのでしょう。魔術・呪術が政治と結び付く。これは恐ろしいことですが、よくあったことです。
「総督はバルナバとサウロを招いて、神の言葉を聞こうとした」。総督は神の言葉に関心を持ち、バルナバとサウロを招きました。8節「魔術師エリマー彼の名前は魔術師という意味であるー二人に対抗して、総督をこの信仰から遠ざけようとした」。魔術師バルイエスの別名は魔術師エリマです。魔術師エリマはバルナバ、サウロに対抗し、総督から福音を遠ざけようとしました。福音と魔術との対決です。
(2)9節「パウロとも呼ばれるサウロは、聖霊に満たされ、魔術師をにらみつけて、言った」。ここで初めて「パウロ」という名が用いられます。サウロはヘブライ語です。同じベニヤミン族出身のサウロ王から付けられた名です。大きい名、偉大な名です。両親の祈りがあります。「パウロ」はギリシャ語です。「小さき者」という意味です。パウロは甦られたキリストとの出会いをこう語りました。コリント一15章8節以下。「そして最後に、月足らずに生まれたような私にまで現れました。私は、神の教会を迫害したのですから、使徒たちの中では最も小さな者であり、使徒と呼ばれる値打ちのない者です。神の恵みによって、今の私があるのです」。これ以降、「サウロ」ではなく、「パウロ」という名に転換します。「サウロ」という大いなる名ではなく、「パウロ」という「いと小さき者」という名こそ、伝道者にふさわしいと思ったのでしょう。
パウロは魔術師エリマに向かって語りました。「ああ、あらゆる偽りと不正に満ちた者、悪魔の子、すべての正義の敵、お前は主のまっすぐな道を曲げることをやめないのか。今こそ、主の御手はお前の上に下る。お前は目が見えなくなって、時が来るまで日の光が見えないだろう」。魔術は主のまっすぐな道を曲げる。曲がった道を示し、曲がった姿勢にする。福音は主のまっすぐな道を示し、まっすぐな姿勢で歩ませる。箴言1章11~12節「私はあなたに知恵の道を教え、まっすぐな道のりを示した。進み行くとき、あなたの歩みを妨げるものはなく、走っても、よろめくことはない」。
「するとたちまち、魔術師の目がかすんできて、すっかり見えなくなり、歩き回りながら、誰か手を引いてくれる人を探した」。パウロが甦られたキリストと出会った時の光景と同じです。天から光が射し込み、目が見えなくなり、地に倒された。誰が手を引いてくれる人を探した。パウロに起きた甦られたキリストとの出会いが、福音を語る時に、ここでも起こるのです。
12節「総督はこの出来事を見て、主の教えに驚き、信仰に入った」。バルナバとサウロの最初の伝道旅行の実りです。総督セルギウス・パウルスが甦られた主と出会い、主を信じるようになりました。
3.御言葉から祈りへ
(1)ブルームハルト『ゆうべの祈り』(加藤常昭訳) 8月13日の祈り イザヤ51・11
「主よ、われらの神よ、あなたがわれらの心によき確信を与えてくださったことを感謝します。あなたがわれらに与えてくださるすべての善きしるしを感謝します。それゆえにわれらは、自分がなおその中に立たされているさまざまな困窮の中にあっても、われら自身の存在にも迫ってくる、さまざまな人間の死の中においても、慰めを得るのです。われらは感謝します。あなたはわれらを慰めてくださいます。そしてわれらはいかなるところ、いかなる時にあっても、立ち直ることができます。善きことを見いだすために、まことに多くの労苦に甘んじなければならない、われらの共に生きる世界のためにも希望を持つことができるのです。主なる神よ、高きところより来る力をもってわれらの世界を祝福してください。多くの人々に善きものをもたらす、多くの賜物によって祝福してください。われらの世界を祝福してください。罪と破滅といっさいの絶望から世界を救い出してください。主よ、われらの神よ、世界を祝福してください!あなたがわれらを祝福してくださるように、み名をたたえさせてください。全世界を祝福し、み名をたたえさせてください。アーメン」。
